2023.9.26

昼に数年ぶりに前の会社の先輩のYさんとご飯を食べた。Yさんは40代後半くらいで、私と20歳くらい離れている。でも、在職中は部署も違うのに何かと気にかけてくれた人で「Yさんの福利厚生」というのもしてくれた。内容は3つから選べて、「ランチを一回ごちそうしてくれる」「本を一冊くれる」あと一つは忘れてしまった。けど、それは手紙に書いてくれていたから、探せば分かると思う。Yさんにはすごくお世話になった。一番と言っていいくらい好いていた先輩だった。そんな先輩には、会社を辞めてから今まで、約2年半連絡を取っていなかった。その間、Yさんをご飯に誘おうかどうか、連絡をするかどうかが頭をよぎった。しかし、その度に忙しさのせいにして連絡するのを後回しにしていた。

 

私の今年の8月は結構ひまだった。バイトを辞めたので週3で終電くらいまで働いていた時間がなくなった。その上、フリーの仕事もそこまで多くなかったし、時間だけはたくさんあった。それで東京をふらふらしていて、久々に友達の働いている書店に遊びに行った。お店で雑談をしていたら、仕事の関係で「Yさんの連絡先を教えてほしい」と言われ、「じゃあ聞いてみるよ」と答えて帰ったのだった。それで Yさんに連絡をする口実もできたし、ついでにご飯にもお誘いしてみたのだった。YさんはLINEをやっていないし、会社のメールしか連絡先がない。心配だったけれど、連絡先もご飯も快諾してくれた。

 

それから一ヶ月。私はどきどきしながら当日を迎えていた。私は出不精なのでまず人に会うだけでも緊張する。その上に長いこと会っていなかった人に会うのだ。Yさんがまったく性格が変わってしまっていたらどうしよう、もしくは、連絡をしていなかったことを怒られたりしたら、などといくらでも心配は湧いてくる。不安を抱えながらジャーナルスタンダードの運営する家具屋を見ていたら、お店の中を通り抜けて反対側の道に出て来てしまった。「ここはどこだ...」と私が細い路地でふぬけた顔をしていると、向こうからYさんが歩いてくるのが見えた。ふぬけ顔をしていることが恥ずかしくなったが、なんでもありません、みたいなにこやかな笑顔で「お久しぶりです〜」と話しかけた。どうやらお店があるのはこの道で合っていたみたい。予約してくれていたイタリア料理店にあがる階段を上りながら、「ちょっとふくよかになった? 幸せ太り?」と訊かれたので「いや、不幸せ太りです」と答えた。

 

おしゃべりは2年半という時間を感じさせないくらい楽しく、なめらかに流れた。そうだ、そもそもこの人とは存在の波長が合うのだと思い出した。私の、この期間の身の上話や会社でYさんのこと、それから会社でこれからやりたいことについて。話をして、聞いてを繰り返していくと独特のリズムが醸成されてくる。話しながらこのリズムは Yさんと対面すると生まれるものだなあと思い出して嬉しくなった。お互い少しずつ年を取ったが、その実何も変わっていないように感じた。後半でおもしろい漫画の話になったが、Yさんに次の打ち合わせの予定が入っていて解散することになった。まだ話し足りない。丸2時間は話したはずだけれど、全然そんな感じはしなかった。そういえば Yさんの頼んでいたデザートは最後まで出てこなかった。

 

帰り際に「また会社の最寄りに来ることがあったら連絡してよ」と言われて私は心底安心した。きっとまた連絡するだろう。私は前の会社の近くのちいさい美容室に通っているからだ。絵も描いているという不思議な美容師さんがいつも髪を切ってくれている。

 

今度は何の話をしよう、と私はもうすでに考えている。こういう小さい嬉しさが心を温めてくれるのだと思う。