大きな蟻(7/9)

成田空港へ向かう電車の中で書いている。電車はいい。川みたいなものだと思う。車は個人的な乗り物で、せせこましく動かなければいけない。それに対して、電車は長く、集団的な乗り物だ。どちらかと言えば建築に近い。寝台列車なんか、その際たる例だと思う。

電車のいいところはほとんどの場合、自分で運転しなくていいところだ。運転手がいて、決められた経路を走る。その安心感たるや。そのおかげで、電車では何もしないということができる。本を読んだり仕事をしてもいいが、私はつい何もしない。外を眺めている。私は散歩が好きだが、それは私が動くことによって景色が動くからだ。身体と連動して見るものが瞬時に変わり、そこに感動がある。世界と個人の対応関係を再確認できるからだ。電車も似たところがあり、座っているだけだが、光景は常に変わり続ける。街の様子や人々の動いているところが見られる。意外な発見もある。春の四谷駅って、菜の花やオオイヌノフグリがたくさん咲いていて綺麗なんです。

成田へ向かう電車の中でこれを書いている。いろいろなことを思う。先日のあの発言は良くなかったなぁとか、スズメバチに刺されることってすごく遠くになったな、とか。いつもは考えられないことだ。電車に乗ることで、その空間・時間的な体験を通じて、私はいつもとは違う思考をしている。それはまた電車でしかできない体験なので、私はつい何もしないことを選んでしまうのだ。