大きな蟻(11/22)

働いている会社は小説の新人賞を行なっている。その贈賞式があった。昨年から参加しているが、まあ楽しい。
ぼくは制作担当なので直接作家とやりとりをするわけではない。しかしこの日ばかりは顔を知っている作家さんや有名な評論家を見かけるので、「おお、あの人もいるのか」とすこし感動してしまう。普段合わないだけについ浮かれてしまうのだ。昨年よりも顔がわかる人が増えていて、着実に知識量が増しているのだなと我ながら感心した。変わらないように見えて、自分、ちゃんと変化している。


例年、ゲストには印刷会社や製本所さんも来るので課長と挨拶まわりをする。今日は後輩に「飯村さん、式の間は何をやってるんです?」と聞かれ「色々あんのよ、挨拶回りとかね」と格好良く答えられた。こんな先輩は格好良いだろう、と思ったら「ふーん、大変すね」と興味なさそうに言われた。

担当者や偉い方たちと一通りお話しをして、ほっと一息つくころには式は終わりの挨拶に。ずっと立っていたので腰が痛い。急いで片付ける。例年、余ったお花は持って帰れるものの今年は人気なのでもらえなかった。彼女と同棲してるという後輩に譲ってあげた。

 こういうの、まず最初は女性社員がもらうことが多い。けれど、花が欲しいかどうかは性別によるものではないよな、と思うのである。ぼくは花が好きなので、積極的にもらいたい。男の子は花を好むべきではない、のような観念の鎖がない世界になるといいなと思う。

 スタッフも解散になった。コートを着て外に出る。傘置き場の前でぼーっとしてたら、会社の偉い人たちが通りかかった。突然「飯村くんは?」と訊かれ、えっえっ、と焦っていると「飲みに行くのか?」と訊かれる。
焦りすぎて課長に「どうするんですか?」と訊くと「ぼくは行くことにするよ」とのこと。何故か益々焦って「いや!ぼくは大丈夫です!!」などと早口で返事し、偉い人たちは先に出て行った。

 なんだかモヤモヤしてしまうのだった。行きたくなければ行かなければいい。もう、世論的にはパワハラは排される時代である。断っても怒られることはないだろう。
しかし、心象的には、本当に行かなくても良かったのだろうか? 少なくとも気分は害すだろうし、次から誘われなくなることは確実。しかも相手は偉い。人事評価にマイナスのバイアスがかかるかもしれない...なんてことを不安に思ってしまう。その自分が嫌なのだ。モヤモヤする。

 そんなことをうじうじ考えながら電車に乗っていたら、知らないデカいおっさんから「お前ぶつかってくんじゃねえよ」とキツく言われる。そうは言っても故意だと受け取られるほど体は当たっていない。声は無視し、そっと距離を取った。
自分は悪くない。だけどどこかへこむ。

 金曜だから疲れているのかもしれない。それにしても、一体いつになったら自分の行動に誇りを持ちきれるのだろうか。些細なことでモヤモヤしたり傷付いたりしなくていいようになりたい。自分を封じ込めずに、安心した状態で過ごせるようになりたい。