大きな蟻(11/14)

心は、身体にかかわっている、と感じるような日だった。

朝から嫌なことばかりだったのだ。話しづらいことを伝えると(後ろめたい内容ではない)、恋人は怒って流しに置いてあったグラスをシンクに投げつけた。グラスは割れた。
そのグラスは気に入ってるものだったし、ガラスは割れて危ないからとても嫌な気持ちになった。そして、腹が立った。
どうしてすぐに怒るのか。怒りではない手段で気持ちを伝えられないのか。いったい何回こういうことが繰り返されるのか。
この一年ほど気持ちが休まらない。また相手の機嫌を損ねるんじゃないか、という日常的な不安がなによりのストレスになっているのを感じる。
ああ、一人で暮らしたいよ、と何度も考えてしまう。そういうことではないのに。


この気持ちが尾を引いて、通勤中もいろんなことに怒りが湧いた。「前のやつもっと早く歩け」「後ろのやつ、彼女を庇うつもりか知らんけど意図的に押すな」「おれにもたれかかるな」
電車が車内救護で遅れたので「車内で倒れてしまうほど調子悪い人を会社は出社さすな」とイラつく。そこで、こんなに怒っている自分こそ、本当は会社になんか行ってる場合ではないのでは、とハッとする。というかそんなことで怒る自分、なんて小さいんだろう。みんな平気な顔をしているぞ。遅れた分、駅から小走りで出社した。


そのままブルーな気持ちで仕事を進めた。こういう時には、著者の赤字を直すなど、淡々とできることをする。
そうして午前をやり過ごしていたのに、午後になって調子が悪くなってきた。お腹は壊すし、体がフラフラする。体が熱いし、手が震える。思うようにならないこの身体。さまざまなところから来るストレスのせいだろうな、と思う。仕事も、年末に向けて忙しくなってきている。今日も一つ、入稿しなくちゃいけないし。


なんとか定時を過ぎ、今日やらなくてはいけないことも終えた。ようやく退社できたけれど、いまは横浜に向かっている。元気な時の自分が、演劇を予約してしまっていたのだ。オフィスマウンテンの新作。評判がとても良い。
会社を出たらすこし元気になってきた。やっぱり会社にいると緊張している。"見られている"という感覚が常にあるからだろうか。毎日、会社を出て安堵している。東海道本線でこれを書く。
今夜は気持ちは休まるだろうか。