大きな蟻(12/19)

気が滅入っていてなかなか書く気力が起きなかった。たくさん書き続けられる人たちがいる。その一方で気分にムラがあったり、毎日書くこと自体に喜びを得られない自分は、形の変わらない溝を指でなぞっているように無力で悲しい。


まあでもいつかはたくさん文章を書けるようになれるのかも、と思う。偶々『ニキの屈辱』を読んだ。語り手の加賀美は写真のアシスタントをやりながら写真家を目指す。しかしよくあることだが、彼はアシスタント業に必死で、写真を撮らない日々が続く。このまま何にもならないのかな、と思ったら、彼は突然写真を撮れるようになる。世界を自分なりにおもしろがれるようになる。おもしろくてしょうがなく、ひたすら写真を撮る。彼は写真家になる。写真を撮る者が写真家だ。


先週まで人と遊んでいると時々落ち込むことがあってなんだか疲れてしまっていた。だから今週は人に会わないようにした。だから本を読んだ。『死の棘』を読み終えた。『愛のかたち』を読んだ。『死の棘』は憂鬱だったけど書き手を信頼できた。『愛のかたち』では強烈な執着と情を垣間見た。こういうのを書ければいいな、と思う。この二冊には本当のことが書かれていた。
ぼくは本当のことを求めている。

ところで、小野正嗣さんの芥川賞受賞の際のスピーチがとても良かった。なにも言うことはない。ただこれを読んでみてほしい。
https://books.bunshun.jp/articles/-/2234


ぼくは、なにも分かっていない。分かってるフリをしているけど、そんなの嘘です。
だからとりあえずやるべきことをやり続けたいと思う。ぼくの目の前には本があり、同時に紙とペンがある。ぼくはひたすらに何かを享受し、何かをひたすらに与えてみたいと思う。

今日はこれ以上は書けない。
もうこれ以上なにも与えられなくて悲しい。