大きな蟻(6/7)

昼、スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライトシング』を観る。
終盤に黒人が白人警官に殺される、という今のアメリカとまったく同じことが起きる。感情の昂った人間集団というのはここまで制御不可能になるものなのか。全員が理性を失っていた。
白人警官は憎しみのあまり殺した、というより、力を入れすぎて誤って殺してしまった、というような描かれ方をしていた。とはいえ、白人だったら殺されるまでは至らなかっただろう。
自分があそこにいたら? そして「正しいことをする」とはどういうことなのか?
BlackLivesMatterを人ごとにしたくないと思う。自分のこととして考える。想像力が試される時であり、同時に訓練でもある。


そのあとは、リモート映画鑑賞会の友だちのおすすめ、イッセイミヤケのショーの舞台裏を記録したドキュメンタリー「PLAYGROUND」を観る。みんな楽しそう、監督はいい笑顔。ショーっていい催しだと思った。
自分は集団で楽しく何かを作り上げることのアレルギーがすごい(というかこわい)ので、若干血の気が引いたが、それでもその光景は間違いなく良いものだった。
今回はファッションショーだけれど、企業が社会に対してスタンスや思想を示すのって大事なことだ。社会的全体にいい影響を与えるだけではなく企業の営利目線でも、既存顧客の信頼感や新規顧客の獲得という実利的なメリットがある。
ただ大部分の日本の市民はまだ、アメリカほど企業のストーリーやステートメントに関心を向けていない気がする。そもそも、もっと大きな社会的なことへの関心自体がない。僕はここ数年で、生活と政治・社会は直接つながってるんだと理解するようになったが、そうじゃない人もいるのだ。


夜は恒例のリモート映画鑑賞会。韓国の『EXIT』という映画。終始突っ込みどころがあり、ゲラゲラ笑いながら観る。設定がガバガバなのに登場人物を追い込もうとするから、「え! 今その選択するの!?」みたいなことがよく起こる。
あと、主人公のヒロインが元ボルダリング選手で、ありとあらゆるところを登ろうとする。結果として、観てる我々がやたら疲れてしまい、体内から一日が充実した感じが出てきた。
実際はそれほど充実していたわけではないのだけど。


すべて終わった後で、津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』を一気に読む。すばらしい作品だった。新人賞だとは信じられないほどの密度だった。
特に中盤あたり、主人公がなぜ公務員になろうと決めたかが明らかにされると、この小説を駆動する何かがグンと視界に立ち昇ってくる。それが僕の心を掴んで離さなかった。平たく言ってしまえば、"弱い者が脅威に屈しないためのお守り"みたいなものなのだと思う。感動したし、励まされた。ここらへんは僕が何かいうよりも、巻末の松浦理英子さんの解説が的確ですばらしいのでぜひ参照されたい。