大きな蟻(5/9)

髪の黒染めをした。
2種類の薬剤をよく混ぜ、髪に塗りたくる。そしてそのまま15分待つ。すると、僕の髪は真っ黒に染め上がっている。

金髪にするときには3種類の薬剤を混ぜて、40分待つ必要があった。それを2回繰り返す。色を抜くことに比べて、色を暗くすることはなんて簡単なのだろうか。椅子に座りながら、ぼんやり考えた。

薬剤を洗い流して鏡を見ると、そこにはよく見慣れた姿の男がいた。やはり黒髪のほうが似合っている。金髪にしていた時には、一つの祝祭のような感覚がずっとどこかにあった。限定的で、一時的。ちょっと浮ついてるようなセルフイメージ。それも悪くなかったが、黒髪のほうが本来の姿のようで落ち着く。化粧をする人もこういう風に感じるのだろうか? 僕は化粧をしないから分からない。いや、過去に一度だけしたことがあるが、むしろ「やらされてる」という受け取り方をした。少なくともそれは祝祭ではなく、義務感のような窮屈でネガティブな体験だったと思う。
「やらされてる感」で動くことがなくなればいいなと、中学生のころから思い続けてるような気がする。化粧をしたときも思った。そしてそれは今も変わっていない。