青山

 ぼくは歩くのが好きで、時間に余裕があるときには電車には乗らずに歩いて移動することが多い。例えば、先日クリスチャン・ボルタンスキーの展示を観に、乃木坂の国立新美術館に行った。ほとんど初めて観たボルタンスキーの作品は圧巻、ぼくはうかつにもうるうると感動の涙を流すにいたった。ぼくは仲間の遺骸を見つけ叫ぶ一頭のクジラになってしまう。

 

 そしてパワーをもらい、ろくに考えずに歩きはじめる。まだ瓶の底の方には夏がちょっと残っていたようで、それをぺろっと天に塗りつけたようで空は青くて日差しが強かった。ちょうど青山霊園に差し掛かったので試しに入ってみる。入口付近には休憩中のタクシーのおじさんたちが缶コーヒーを飲んでいる。すれちがうときにタバコの臭いがぼうっと入ってきて少しそわそわした。木々の立ち並ぶ、坂道を登る。見えてきたのは整列した墓だ。地面の至るとことには雑草が湧き出している。感じのいい風が時々吹いてきて草たちがサラサラと音をたてる。一瞬だけ青くさい。セミの声。

 墓の通路を通り抜けてみる。なんだか小学校の卒業式みたいだ。在校生の作ってくれた花道。と考えてちょっと笑いそうになってしまう。お墓なのに笑っては失礼でしょ、と怒られそうだ。だってシュールなんだもん。足元がでこぼこしていて目が離せない。端っこまで来たから立ち止まって空の方を見ると遠くにビルの山。あれが六本木ヒルズってやつか? まだ東京2年めなのでわかりません。ふーん、あんたどこから来たの? 育ったのは茨城の水戸です。そうか、あすこの梅はきれいだよな。ですね、ぼくも結構好きなんです。すごく昔に行ったよ、特急がなかったから2時間くらいかけてね。電車の中からも田んぼしか見えなくてね... 

 

 それからぼくは青山トンネルを通り渋谷方面へ抜けた。コカ・コーラの本社があったり、有名なクラブ「青山蜂」を発見した。コカ・コーラ社の前には自動販売機が多数並んでいてさすがだなと思った(ちょっとだけ安かった)。

 トンネルのなかは道が狭くてすれちがうのがやっとというくらい。ぼくが通り過ぎる間に、なにか悪いものを置いて歩いてきたような気がした。なんというか、視界全体がトンネルに入る前よりぱっと明るくなったような気がしたのだ。意識がクリアになったような。渋谷について井の頭線で帰ってからそのことを話したら「目の明順応が過剰に働いたんじゃないの」と冷静につっこまれた。いやそんな事ないと思うんだけどな... だって意識にまで影響があった気がするし...と話すもふーんともう聞いていない。まあいいや。明日は会社だから早く眠ろう。