「メールマガジン、やってみようかな...」私は突然思いついた。
自分と自分に近い人たちが文章を書き、それを読みたい人に送る。お金がほしいわけでもないし、有名になりたいわけでもない。
ただ、これまでフリーペーパーを書いたりデザインすることがあって、知ってる人が書く文章おもしろくて最高! ということが何回もあった。プロではないし仕事で書いたわけでもない文章は却ってキラキラとして魅力的だった。その記憶が3月上旬に突然湧き出し、この決意をするに至ったのである。
私は「イエローページ」という名前でメルマガを月に1回のペースで発行している。このあいだ4号を送ったところなので、4ヶ月以上はメルマガのことを考えながら過ごしている。不安もあったけれど、いまのところは良い印象しかありません。
ぜひとも他の人にもやってほしいので、メールマガジンの始め方とその感想を書き留めておこうと思います。
まず、なぜメールマガジンという方法を取ったのか。それは準備がいちばん簡単だからです。
雑誌やzine、フリーペーパーは、作ろうと思うと材料や印刷費がかかるし、デザインをする必要もある。経験上、ちょっとした冊子でもデザインに結構な時間が、印刷・製本にはお金と手間がかかる。作ったら置く場所も必要だ。
もちろん、zineにはzineのよさがあるし自分もまた作るんだろうけど、今回は一番簡単にできるものにしたかった。それはなるべく長く続けるために、自分に負担をかけたくなかったからだ。
インターネットがあるじゃん、という人もいるだろう。自分でサイトを作らないまでもnoteやはてな、Tumblrといった記事を書けるサービスはたくさんある。
でも、それだと雑誌のようにパッケージとして読んでもらうことはできない。それに、いつでも読めてしまうので特別感が薄くなってしまう。演劇や映画を観るときのように、日常生活の中にささやかな一回性や贈り物を作りたかった。
メルマガを始めるにあたって、
・新しいgmailのアドレス
・Googleフォーム
・ロゴやタイトルの画像
この3つだけは用意した。
あとは自分が文章を書き、友達に声をかけることで紙面を作ろうと思った。メルマガにはいくつか種類があって、企業がPRに使うものもあれば個人がアイデアを発信するためのものもある。私はそのどちらでもなく、自分以外の人のいい文章を紹介していきたいという立場だった。
というのもそもそも、自分がメルマガをやる理由としては
①普段書かない人の文章が読みたい
②多様で未知のものが行き交うのを見てみたい
ということがあった。
だから自分じゃない人が書いてくれることがとても大切だったのだ。
文章が集まったら普通にgmailでレイアウトしていく。トップにロゴを配した写真を貼り、目次を作る。そしてタイトル・本文・プロフィール文を人数分同じ体裁で並べ、巻頭と巻末に一言ずつ何か書く。読み手も書き手と同じくらい大事なので、読んでくれたお礼は欠かさないようにしている。
登録はGoogleフォームのリンクをTwitterに貼ることで募った。初回の登録者は40人くらいだったので、1件ずつ手で送った。その方が相手に届く気がしたから。同じ内容のメールを送るにはgmailのテンプレート機能が便利で、2クリックで安全に入力することができる。メールは送ってしまうと取り返しがつかないので、送る前はとても緊張する。震える手でメールを送ったのはいい経験だと思う。
送ったあとは特にすることはない。普段、仕事をしている時は新作をリリースしたあとはエゴサーチをする。物を売るために、誰が買いどのように感じたかを知ることは大切だからだ。
しかしメルマガは違う。ウェブメディアではなく知名度もないので、SNSで拡散されにくいのだ。でも本当は感想を書いてくれるとめちゃくちゃ嬉しいので、なんとも複雑な心境です。
実は、書き手からの感想にも好意的なものが多い。「海に手紙の入った瓶を投げるみたいですね」と言われたのが印象的に残っている。反響が見えにくいので、そう喩えたのかもしれない。またメルマガを通じて私とコミュニケーションが生まれるのも楽しいと言われた。メルマガができたことでコミュニケーションの入り口が増えたのは思わぬ副産物で嬉しい。
その後、ちょっと落ち着いたころにお礼のお菓子などを渡すようにしている。心苦しいが、メルマガを通した収益がないので現金で謝礼を払うことはしていないのだ。また、貨幣経済を持ち込むと大変なことも多いので、やっぱり積極的には導入したくない(『予想どおりに不合理』という本を参照のこと)。もしたくさんお金を得ることがあっても変わらず現物支給のスタイルでいきたい。
また、謝礼について曖昧にするのは不誠実なので、初めて書く人には「現金を支払うことはできません」と明言するように気を付けている。
1回配信してみると「今度はあれをやってみよう」という気持ちが出てくる。登録フォームの内容を充実させたり、登録解除フォームをつくったり、意見を募集してみたり、一斉配信できるようにしたり。自分の手で作り上げていくこと自体がとても楽しい。
また、原稿を最初に読むことができるというのも嬉しいことの一つだ。執筆者の文章は毎回どれもすばらしく、テンションがあがりすぎて泣きそうになってしまうこともしばしば。このほやほやの赤ちゃんのようなものを預かって、みんなに送ることができるのが一番嬉しいことかもしれない。
ここまで書くと「私は何を作っているのだろう?」とつい話が膨らんでしまう。よく考えると、これは公民館に似ている気がしてきた。
私の地元の公民館は、クーラーがよく効き、かるた大会が行われ、本が読め、カレーを食べ、将棋教室のある場所だった。入るときにはスリッパを履かないといけない。昔は珍しいウォータークーラーもあった。
そんな場所が家から10分くらいのところにあった。完全に普段の生活の範疇にあるが、ちょっとだけ特別な場所なんだと認知していた気がする。
このイエローページも公民館のような場になっているのではないかと思う。色んな人が集まって色んなものを書く。前回は書かれる内容は布団や焚書、オキゴンドウにフライドポテトまで本当に多様だった。そして同時に、色んな人がそれを読む。
私はメルマガはゴジラみたいに大きくなくていいし、スーパーカーみたいにすごく速い必要はないと思っている。
むしろその反対で、小さくてゆっくりとして、反応がにぶいものがいい。そして、人間全員が自分の思い思いの場所を作ってほしいと思っているし、できればそこに足を運ばせてほしい。
街に出にくい今だからこそ、みんなが自分の手でちいさな場所を立ち上げていくことを願っています。
(登録するとその時の最新号以降をお送りします...!)